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 ――打(ぶ)ち殺せェ……

 

 甲高い声で響く呪詛が薄暗い裏通りに流れる。

 

 ――締め殺せェ……刺し殺せェ……

 

 男たちの呪詛は風に乗り、表通りで免罪符を売る男たちの耳へと届く。

 

「テッツェルさん……」

「分かっとるわい。引き上げ時じゃあ」

 

 最後の一稼ぎに向けてテッツェルと呼ばれた修道士やくざが一段と声を張り上げる。

 

「この免償符一枚ありゃあ、おどれらの糞汚い陰茎をのう、イエス大親分のおっ母さん、マリアさんにブッ刺しても許されるんじゃけん!」

 

 だが、その時――、呪詛を唱える陰気な男の影は、テッツェルの直ぐ背後にまで迫っていた……。

 

 

 愚直なる魂を持つやくざ、ルターが、全てを敵に回しても己の任侠道を貫いていく。教皇の勅書を焼き払い、ドイツ皇帝を前に啖呵を切り、そして、かつての仲間を切り捨て、自分を頼ってきた農民さえも「殺せ!」と断じて、ルターが己の任侠道をひたすらに突き進む。

 

 

8章 極道ルターの宗教改革

(上:ルター)

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